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金融救済でぼろ儲けする人たち(テキスト版)

2008/11/17放送 /デモクラシーナウ
http://www.youtube.com/watch?v=NtDXYYvQfM4

キャスター(エイミー・グッドマン):

ワシントンで開かれた20カ国緊急金融サミットでは、金融市場への監督の甘さを反省し規制強化が宣言されました。米国では7千億ドルの金融救済策が始まって1ヶ月です。ポール損財務長官の新戦略は消費者向け金融への支援を通じた消費てこ入れです。

オバマ氏の政権移行チームは救済措置の運営を見直していますが、就任は2ヶ月先です。すでに2900億ドルの投入が始まっているのに、救済措置を監督する独立機関の人事は進んでいません。

ナオミ・クライン氏によれば、「具体策が出るにつれ、政府の金融救済策は、役に立たないどころか犯罪すれすれと分かった」ネイション誌の記事からでした。

トロント在住のクラインさんは『ショックドクトリン』の著者です。

犯罪すれすれとは?

クライン:

違法な要素がいつくかあります。2500億ドルは巨大銀行への政府の資本注入です。資金を入れる見返りに政府は銀行の株式を取得します。銀行の「貸し渋り」を防ぐのが目的です。「貸し出しを促すものに限る」と法律にはっきり書かれています。法案の策定者によれば、政府資金の注入が貸出の促進に結びつかず、ボーナスや配当や合併資金に化けるのは違法行為です。

でも実際はまさにそれです。社員や株主に配られ、貸出しには回りません。銀行側は隠そうともしない。シティバンクは他行を買おうとした。他にも違法な点があります。

危機のただなかで財務省は、銀行業界に棚ぼたの税制優遇措置を与えました。銀行が合併すれば多額の税控除を受けられる法令を出したのです。これによる歳入の減少は1400億ドルと見られています。専門家の多くは、財務省が勝手に税制度を変えたのは違法であり、議会を通すべきだったと言います。議会は後から知らされました。

違法すれすれは他にもあります。

7千億ドルの公的資金とは別に、2兆ドルが連邦準備銀行から銀行に緊急貸出されました。受け取り手の名前は公表されません。金融以外の企業も受け取ったらしいですが、税金の行き先は不明です。公表すれば銀行の取り付け騒ぎが起こったり、信用が失われるというのです。

これが2兆ドルですよ。

何を担保に取っているかも連銀は言いません。ここが大事です。いまの金融危機の核心は「ディストレス資産」という評価が難しい資産です。紙くず同然になるかもしれない。こんなものが担保では納税者の金は取り戻せない可能性が高い。ブルームバーグ社は受けてと担保物件をつきとめようと裁判に訴えています。開示されないのは違法だからです。

まさに「数兆ドルの犯罪」です。彼らは証人喚問を要求しています。前回お話したのはポールソン長官が提出した、最初の7千億ドル救済策でしたね。たった3枚の紙にこう書いてあった。「助かりたいなら7千億ドル出せ」「政府も裁判所も口出しするな」その後の修正で、きちんと報告することになり、法律に従うことが約束されたはずでしたが、どうやらポールソン氏はもとの狙いを達成したようです。説明責任は問われず、議員は追及をためらっています。取り付け騒ぎや市場の動揺が怖いのです。ブッシュ政権が脅すのです。「恐慌になったらお前のせいだ」民主党は口先だけの批判しかできません。

キャスター:

前回のお話は選挙中でしたが、今は選挙も終わり、民主党はもう劣勢ではありません。それどころか圧倒的に優位ですね。

クライン:

そうなんです。いまや民主党はいろんな手が打てるはずです。本気で違法と思っているなら「待った」をかければいい。英国の銀行救済策の条件に比べ、あまりにお粗末なのだから、英国では資本を入れる代わりに政府は投票権を獲得し、役員を送り12%の配当を受け取ります。米国では配当は5%。投票権も役員派遣もありません。英国では銀行の貸出し再開を文書で約束させたのに、米国では文書がなく銀行は貸し出さない。それなのに議員たちは波風を立てるのが怖いのです。次の財務長官の指名についても移行期の経済政策についても、連続性とか円滑な移行とか、そんな言葉ばかり聞こえます。

つまり「現状維持」です。市場が臨むのは、規制がゆるく、ただで使えるお金の継続です。市場を動揺させ円滑な移行を妨げるのは新しい保安官が来て、彼らも法に従わされ企業優遇政策は終わり説明責任を問われ、借りる金に条件がつく時です。

市場には気の毒ですが、有権者は変化に投票しました。今回の選挙は規制緩和政策への国民投票だったのです。そこで難問にぶつかります。現状維持を望む市場と変革したい有権者をどうすり合わせるか?波風立てずに達成されるなんてありえません。心配なのはオバマ氏の周辺がこの市場の要求に弱いことです。

市場の要求は連続性や円滑性な移行です。次期財務長官にサマーズ元長官の名前があがるのは市場を満足させるためです。

キャスター:

「犯罪すれすれ」の取り引きについてもっと話しましょう。議会が救済措置の一貫として税法を改悪していたのが発覚しました。企業合併の際の繰越損失算入を制限する法律を変更し、ダミー会社の合併による税金逃れができるようにしてしまった。議員たちは国民の憤慨を恐れて法律改正を隠そうとしたらしく、民主党ボーカス上院財務委員長は税法改正の説明会を公開するなと指示したらしい。ある匿名秘書によれば「誰もが市場の反応を恐れ、違法だと言えなかった」「大事な交渉がぶち壊しになると」

クライン:

耳を疑いますね。「法律は適用できない。経済危機だから」と議員が言う。「経済コストが大きいので議会の合法性は贅沢だ」なんて恐ろしい。そもそも弱含みの市場は2歳児のようなものです。欲しいものが手に入らないとかんしゃくを起こし、怖くなると泣き叫ぶ。こんな市場におもねるのは危険です。愛のむちが必要です。

それが有権者の選択でしたが、法律を守ると表明すれば市場は大荒れになる。そこで裏口からこっそり違法な税控除を配ったのです。まさしく火事場泥棒の資本主義「ショックドクトリン」の典型例です。

銀行は長年、この税控除を狙っていたが平常時には得られなかった。危機に乗じて裏でこっそり通したのです。法が改正された9月30日ごろはリーマン・ブラザーズの破綻や救済法案の否決に人々の関心が集中していて法改正に気づいた時は遅かった。ブッシュ政権は巧みにすり替えます。「この緊急時に銀行合併を邪魔するのか?」税控除のばら撒きが一連の銀号合併を促したからです。ここで問われるべきなのは、いま財務省が取るべき措置は銀行の大型合併の推進なのか?

そもそも、この救済措置が必要になった理由のひとつは「大きすぎて潰せない」銀行が沢山あることですよね?それなのに危機の「解決策」はもっと大きな銀行を作ることなのです。もちろん「大きすぎて潰せない」このまま行けば3〜4の大きすぎて潰せない銀行だけが残り、どんどんリスクを貯め込みますが、誰もそれを止めません。今回の救済措置で銀行は従来の途方もない借入比率の運用を禁じられていないのです。

複雑な高リスク金融商品への投資はいまだ禁止されず、やりたい放題です。合併でさらに大きくなったので失敗を繰り返しても救済されます。政府はなぜ税免除までして合併を奨励するのでしょう?

民主党も「いま反対すれば合併交渉がぶち壊しだ」と言います。問いただすべきです。

キャスター:

この後、後半ではクラインさんがローリングストーン誌に書いた「救済でぼろ儲けする人たち」の話を聞きます。その後、元CIA分析官で、現在は人権擁護センターの代表がオバマ氏の政権移行チームについて諜報活動の観点から話します。戦争前夜の情報活動への政治干渉や民間人拉致を正当化した人々の名前があがっています。

- 休憩 -

ナオミ・クラインさんと話しています。『ショックドクトリン』の著者、クラインさんはネイション誌など、雑誌や新聞にコラムを載せています。最近、ローリングストーン誌に「救済でぼろ儲けする人たち」という記事を書きました。

クライン:

あの記事のポイントはイラクで占領当局がしたことと、いま米国が財務省でしていることの気がかりな類似です。財務省の占領地化です。ブッシュ政権のイラク占領の方針は、なんでもかんでも民間の請負業者に任せることです。企業の請負戦争なのです。初期の委託契約は大急ぎで結ばれました。「非常事態」が演出されたからです。非常事態を理由にして、入札競争もなく監督もされない契約が正当化されました。同じことが今くり返されています。もっと大きなスケールですけど。

ポールソン財務長官は7千億ドルの救済措置を発表した時、すべての業務を民間に委託すると同時に発表しました。委託先は危機の原因となった当の銀行や法律事務所です。競争はほとんどなく大急ぎで契約が結ばれました。手続きにはほとんど監督がありませんでした。例えばBNYメロン銀行は巨大な総合契約を受注しました。財務省のハリバートンと言えるほど、おいしい元請契約です。しかしBNYメロン銀行は、公的資金注入を受けた9つの金融機関のうちの1つです。自らがデリバディブ市場の崩壊で深刻な危機に陥った銀行が、救済措置の実施を請け負うのです。

つまり実際は逆行で銀行が一部国有化されたのではなく、財務省が一部民営化されたのです。

さらに驚くべきことはイラク占領の請負企業と違い、BNYメロン銀行への委託は契約価格も公開されていません。契約書の一部が抹消されていて税金がどう支払われるのか、納税者には分からないのです。財務省は数日中に情報開示すると3週間前に述べたままです。重要な公的資金注入に関し、財務省が顧問契約を結んだ最初の法律事務所は、その取引には銀行が貸し出しを始めることが書かれず、納税者の配当は5%だけ、英国は12%です。

シンプソン・サッチャー・バートレットです。この法律事務所はウォール街の実力者で最大規模の銀行合併交渉をいくつもまとめてきました。しかも公的資金注入を受ける9銀行のうち7社が、シンプソン・サッチャーの顧客であったと判明しました。重要なのはシンプソン・サッチャーがこれらの銀行から得る報酬は、財務省の委託契約の収入よりずっと多いということです。ここには大きな利害の抵触があります。

この法律事務所が代表するのは銀行の利益であって公益ではありません。

キャスター:

ワシントンで行われているG20会議について話してもらえますか?

クライン:

この会議はほんとうに惜しい失われたチャンスです。

現在の危機から脱出する道として多くの人々が期待したのは過去30年間の経済政策を支えてきた思想の見直しでした。オバマ氏の選挙運動は規制緩和と自由貿易の偏重に対する国民投票になりました。金持ちが儲かれば貧乏人もおこぼれで潤うという理論を退ける彼の経済政策案は有権者の強い共感を得ました。

忘れてならないことですが、オバマ陣営が巻き返したのは危機がウォール街を襲ったときでした。それまでマケイン氏に押され気味だったオバマは規制緩和を礼賛する思想を告発するような発言を始めました。すると支持率が好転し地すべり的勝利につながりました。ですから人々は、さあ方向修正だと期待しました。

でもG20サミットの生命は規制緩和礼賛の思想を再確認しています。確かに世界の首脳は規制や監督が不十分で複雑怪奇な影の銀行業界がこの危機を生んだと認めましたが、解決策として打ち出されたのは、この夏に決裂したWTO交渉を復活させることでした。米国主導の新自由主義政策とグローバル化の主張は途上国の拒絶で挫折していたのにIMFより大きな役割を持たせようという声もありました。しかしIMFやWTOの政策が近年失敗し続けているのはIMFの融資条件を世界の国々がもはや受け付けないからです。

G20はIMFの役割の拡大やWTOの交渉の復活を要求することで、結局はこれまでと同じ規制緩和の推進を求めているのです。

例えばWTOドーハラウンドは農業助成金の議論が注視されますが、金融業の規制緩和も含まれています。欧米の金融機関に中国やインドが市場を開放するよう英米が中心になって要求しました。

「自由貿易は退けられない」と彼らは保護主義を批判しますが、つまりシティバンクやバークレーが中国やインドの市場に参入するため、現地銀行を買収したいのです。これはひどい偽善です。この種の自由貿易から利益を得る欧米の銀行はすべて今回の金融救済措置で自国政府の手厚い保護を受けてもいるのです。保護主義への反対を口実にして他国の資産を買収しようとする一方、自国の納税者からは多額の助成金を受け取っています。またG20ではチャンスが失われました。首脳たちがその気になれば規制の国債協調も可能です。

これによって各国政府は銀行を招致するために安い税金や緩い規制で競争しなくてよくなる。最近、ワックスマン議員が開いたヘッジファンドに関する公聴会で、ヘッジファンドを所有する富豪でオバマ支持者のグリフィン氏が話しました。

ヘッジファンドへの規制は十分か税金は安すぎないかと聞かれて「もしそうしていたら米国の金融業会は英国に仕事を取られずにすんだのに」と応えました。ロンドンに行くと良い仕事の多くが英国に取られたことに心が痛むと、英国はヘッジファンドの規制が緩いのです。今この機会に米国と英国の政府が規制を調和させることは簡単です。ヘッジファンドに逃げ場を与えないようにするのです。そうした規制の必要性が今回の危機で明らかになり、それが優先課題だと国民が選挙ではっきり主張したのに、首脳たちはっ税金逃れや規制緩和競争を防ぐ絶好のチャンスを台無しにしました。それどころか規制緩和を呼びかけたのです。

キャスター:

英国では公的資金の注入に際し納税者の利益を守るため、一定の保障を引き出したと書きましたね。政府は投票権と12%の配当を受け役員を派遣する。配当や役員ボーナスは制限し住宅ローンや中小企業への融資を法的に義務付けました。一方、米国の銀行は救済資金の半分以上を株主への配当に使い33行が約1630億ドルの公的資金を受け取りますが、その半分は今後3年間の配当支払いに使われるようです。

クライン:

これは救済措置ではなくジョージ・ブッシュから仲間へのお別れプレゼントです。まるでヨーロッパの植民地統治者がついに権力を渡す時が来たと悟り、引き上げ際に国庫を略奪したときのようです。最近ポールソン長官は当初の計画は全部取り消しだと大幅に政策を変更しました。銀行の不良資産を買い上げるのは止めてクレジットカード会社の救済に切り替えるのだと言います。

その理由は最初の2500億ドルがドブに捨てられたからです。本来の目的だった貸出しの増加につながらなかったと認めています。その埋め合わせに第2弾、第3弾と資金を入れるのです。2500億ドルもの無駄遣いに国民が気づかないとでもいうように、そのお金はボーナスや配当やCEOの給料になったのです。今試されている方法も結局は最後のプレゼントです。

このお金の意味は?

危機は終わっていないのです。この救済措置を正当化した人々はオバマに言うでしょう。「残念ながら君の公約を守る金はない。国民皆保険の余裕はない。社会保障のようなサービスももはや続けられない」と。国民の期待は低下してきています。「貧者から盗み金持ちに与える」逆ロビンフッドなのです。

余裕のある人々にお金を配り困っている人々には緊縮政策です。食糧引換券や社会保障や医療支出の削減が正当化されます。国民皆保険やグリーンエネルギーを推進する余裕がないことは言うまでもありません。

次のショックがまた来ます。

キャスター:

GMをはじめとする自動車産業の救済をどう思いますか?

クライン:

無条件ではいけません。IMFが途上国に融資するときどうしますか?「構造調整」と呼ばれた一連の条件を突きつけるのです。自動車産業も救済措置を受けるなら構造調整されるべきです。納税者はIMFのように自動車産業に対処するべきです。

無条件にお金を出さず、環境に優しい車を作り雇用を保護しろと要求すべきです。気がかりなのはブッシュ政権が自動車産業を救済したい民主党にコロンビアとの自由貿易協定支持を見返りに求めていることです。信用をなくした自由貿易政策が復活しようとしているのです。この不評な政策の復活のために今回の危機が利用されています。コロンビア自由貿易協定もIMFもWTO交渉も墓場から蘇っています。今こそ永遠に葬り去るべき時なのに。

キャスター:

ナオミ・クラインさんは『ショックドクトリン』の著者です。最新の記事はネイション誌の「円滑でない政権移行を望む」トロントのCBCスタジオから話していただきました。

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